日本の外国人入国制限に懸念

留学生受入れ岸田首相に嘆願

在米の日本研究者

 在米の日本研究者、大学教授、政策決定に携わる実務家など46人が18日、ジャパン・ソサエティー理事長、ジョシュア・ウォーカー氏の呼びかけでオンライン会議(=写真、参加パネリスト)に参加し、日本政府の外国人に対する厳しい入国制限に対し深刻な懸念を表明した。同日岸田首相に改善の嘆願書を提出した。署名は24日現在1180人。

 この中で、参加者は国際交流の橋渡し役として日本の国内外において国際関係及び次世代の日本専門家育成にこれまでのキャリアを通して取り組んできた立場から「日本の現在の水際対策のもとでは、在留資格を持たない外国人は、たとえワクチン接種と検査による陰性証明がなされ、隔離に応じる意思を持ち、その他全ての公衆衛生上必要な手順に従ったとしても、留学、就労、ビジネス、研究活動、家族訪問を含むいかなる目的での入国も認められていない。このような国境閉鎖措置は、国際社会との関係に悪影響を与えて日本の国益を損ない、特に米国人留学生が日本留学を諦め、続々と他国にシフトしている現状は日米関係にとっての大きな打撃と損失である」と述べている。

 討論会に参加したのは、総合司会にスーザン・J・ファー・ハーバード大学エドウイン・O・ライシャワー研究所所長・教授、フィリップ・リプシー・トロント大学助教授、デービッド・P・ジェーンズ沖縄協会会長、クリスタル・プライヤー・太平洋国際フォーラム副会長(ハワイ)、レオナルド・ショッパ・バージニア大学教授、シェラ・A・スミス・日米友好委員会上席顧問、パトリシア・マクラーレン・テキサス大学教授ほか日本人ジャーナリストなど。

 嘆願書では、観光目的以外での外国人の入国が認められるよう一刻も早くこの政策を変更するよう求めている。会議ではパンデミック期間中におよそ15万人の外国人留学生が足止めを余儀なくされ、日本留学を諦めたり、他国へシフトしている現状が報告された。

米加の日本研究者が日本政府に嘆願書

  日本国 内閣総理大臣 岸田文雄殿

「留学生入国させて」

 私たちは、研究者、大学教員、政策決定に携わる実務家などの立場で、国際交流の橋渡し役として日本の国内外において国際関係及び次世代の日本専門家育成にこれまでのキャリアを通して取り組んできました。この立場から、日本政府の外国人に対する厳しい入国制限に対し深刻な懸念を表明するため、本書簡を提出します。日本の現在の水際対策のもとでは、在留資格を持たない外国人は、たとえワクチン接種と検査による陰性証明がなされ、隔離に応じる意思を持ち、その他全ての公衆衛生上必要な手順に従ったとしても、留学、就労、ビジネス、研究活動、家族訪問を含むいかなる目的での入国も認められていません。このような国境閉鎖措置は、国際社会との関係に悪い影響を与えて日本の国益を毀損しており、観光目的以外での外国人入国が認められるよう一刻も早くこの政策を変更するよう求めます。 

 先日、故エズラ・ヴォーゲル・ハーバード大学名誉教授の追悼イベントが開催されました。ヴォーゲル教授は、日本研究者として、また米国政府の対日政策に影響を与える立場から、数世代に亘り日本専門家の育成や日米関係の発展に尽力されました。ヴォーゲル氏は、人と人との関係を築くことが極めて重要であるということを一貫して強調し、ご自身も生涯キャリアを通して頻繁に日本を訪問されていました。コロナ禍の過去2年間、このような人と人との関係作りは実質的に一時停止となってしまいました。 

 昨秋以来、欧州や韓国には留学できても日本には留学できないため、北米の大学生は留学先を変更するだけではなく専攻や語学の選択も変更し始めました。大学院生の間では日本を研究の一環とすることを諦め、外国人研究者の入国が認められている国の研究に切り替える人たちもいます。いずれも今後の人生を左右する決断であり、長期的な影響が危惧されます。 

 2012年、当時の安倍総理とオバマ大統領は、2国間の学生交流を倍増するという目標に合意し、様々な指標によれば、コロナ禍前の時点で目標はほぼ達成されつつありました。目標達成に向け、日米両国の政府機関や民間団体が多大な資源を投じ、多くの方々

が多大な努力をしてきましたが、日本の国境閉鎖措置によりこれまでの労苦が水泡に帰すのではないかと危惧しています。 

 近年、日本は「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)」というビジョンを掲げて国際社会でリーダーシップを発揮してきました。このビジョンの基本理念は「開放性(Openness)」であり、自由貿易や海外直接投資などの経済政策の分野でこの理念を体現する政策を実行することで日本は国際社会に貢献してきました。しかしながら、現行の厳しい国境閉鎖措置はこの外交政策ビジョンに相反するもので、国際社会のリーダーたろうとする日本の国益を損ねかねないと憂慮します。 

自国民を守るという趣旨は理解しますが、日本の現在の政策は公衆衛生ではなく国籍を強調するものです。日本国民は観光目的の海外渡航すら認められているなか、外国籍の人々は日本にいる家族から切り離され、キャリアや留学先といった将来設計の変更を強いられています。 

 私たちは日本が国境を完全に開放すること、外国人に緩い入国条件を設定すること、あるいは観光客に門戸を開くことを唱導しているわけではありません。研究者や留学生は観光客ではありません。日本に関心を持ち、日本を理解しようと努め、日本社会に貢献するために多大な時間と労力を費やしてきた人たちです。今後日本と世界の橋渡し役を務める人たちです。将来、政府の政策決定、ビジネス、教育の場などでリーダーとなる人たちです。日米同盟、そして日本の根本的な国益を支える様々な国際協力活動の基盤となるのは、こういった人たちです。 

 パンデミック発生から2年が経過しました。今後も新たな変異種が定期的に出現することは避けられないでしょう。変異種発生のたびに人と人とのつながりを断ってしまうことは、日本の長期的な国益にとって現実的な戦略とは思えません。この2年間、各国は厳格な国境の出入国管理を導入する一方、安全な入国を可能とするための効果的な入国制限と水際対策を模索してきました。ワクチン接種を義務付けた上での外国人受け入れは、日本の国益にも資すると確信します。将来にわたって日本の国際協力に貢献していく人たちの入国が許可されるよう、日本政府に入国制限と水際対策の早期緩和を強く要望します。 

 本書簡の内容は、日米次世代パブリック・インテレクチュアル・ネットワークプログラムに加え、日米友好基金、日米交流財団の理事一同、国際交流基金の米国側諮問委員会、ジャパン・ソサエティー(NY)、ワシントンDC日米協会を含む団体の支持を得ています。本書簡はEメールにて回覧され、賛同者には自ら名前を追加してもらい、署名を集めました。所属先が記載されていますが、署名者は所属先を代表する立場ではなく、個人の立場で署名しています。

2022年1月18日  署名者一同

(原文まま)