社会貢献は教育支援から

コロンビア大学理事

花沢菊香さん

 花沢菊香さんはこの春、コロンビア大学の理事に選出された。同大学初の日本人女性理事だ。東京生まれの花沢さんは、コロンビア大学のサマープログラムに入るため1989年に来米、その後美術史を専攻して2000年に同大学を卒業した。

 大学の理事会は大学がつくるミッションの遂行をサポートするためのもので、学長を選任・罷免する権限をもつ。一方で、報酬はない。花沢さんのモチベーションとなっているのは、次世代の教育に対する情熱だ。「社会貢献のためにビジネスや非営利団体の活動をいろいろやってきましたが、行き着くところはいつも教育です。社会問題をどうやって変えていくことができるか、それを解決する人をつくるのは教育だからです」と花沢さんは語る。

 花沢さんは、日米のファッション業界で30年以上にわたり企業経営、投資、慈善活動を続けてきた。ニューヨークのファッションブランド、VPLのCEO(最高経営責任者)を務める一方、東日本大震災後に「ファッションガールズフォーヒューマニティー」を立ち上げ、大がかりなサンプルセールを開催して東北やハイチなど自然災害被災地に寄付金を送った。コロナ禍では、生地があって縫製できれば、型紙をダウンロードして医療防護服を自分で縫える仕組みを構築。昨年は分権型ファッションのプラットフォーム「ヤビー」を創業し、白衣通販のクラシコのアドバイザーも務めている。コロンビア大学では2020年、同大学の1つであるスクール・オブ・ジェネラル・スタディーズの理事に就任した。スクール・オブ・ジェネラル・スタディーズは1947年に退役軍人のために設立されたが、現在ではコミュニティカレッジから編入する生徒、モデルやダンサー、ミュージシャンなど高校から直接進学できない生徒にもアイビーリーグの教育が受けられるように門戸を広げている。花沢さんはまた、毎年5人の日本人もしくは日本で住んだり働いたりしたことのある生徒の支援をするため、125万ドルをコロンビア大学の基金に寄付した。

 コロンビア大学では今年7月、エジプト出身でアメリカで教育を受け、現在ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの学長を務めるイギリス人のミノーシュ・シャフィク氏が新学長に就任する。コロンビア大学の女性理事は花沢さんと新学長を入れて8人となり、女性の割合は4分の1から3分の1に増える。花沢さんは「日本は女子大以外では女性の学長は少ない。研究者も少なく、理事会の理事も少ない。理事に関していえば、今後少子化で学校の経営が難しくなっていく今、卒業生のコンサルタント出身者や経営者など、どんどん外部から登用すべき」と指摘する。その上で「(コロンビア大学で理事になることは)日本のようなジェンダーギャップが激しい国の学校で、女子に日本はダメじゃない、これから日本は女性が変えていくと応援することでもあります。次の世代の未来がよくなるためにできることを、これからは教育を通じてやっていこうと思っています」と語る。

 コロンビア大学の理事の任期は6年で2期まで。通常12年続ける人が多いという。12年後、花沢さんの望む風景が日本でも広がっていることを共に願いたいと思う。杉本佳子(NY在住ジャーナリスト)