NYで幼児教育続け半世紀

こどものくに幼稚園 園長

早津 邑子さん

 ニューヨーク州ウエストチェスターのホワイトプレーンズにあるこどものくに幼稚園は、2025年4月で創立50周年を迎える。ニューヨーク地区で最も古い日本人幼稚園だ。園長の早津さんがニューヨークに来たのは1973年。27歳の時だった。日本で保育園と幼稚園に勤務し、米国の幼児教育事情を見学するため短期滞在の予定で来米した。ニューヨークで、公立、私立の学校を見る中で一番びっくりしたのが、校庭のないビルの中だけで完結している学校が存在することだった。またマンハッタンのプライベートスクールの中には、少人数の個別で教育をする学校があるのにも驚いた。ある日、現地校を見学している時に、外で子どもたちが遊んでいて、日本人の子供と思われる児童が、砂場で一人で遊んでいた。ほかの子どもたちとは交わらず、30分も40分も同じ姿勢で遊んでいた。英語で「ホワッチュアネーム」と聞いた。子どもはじーっとしている。「こんにちは」と今度は日本語で声をかけた。「その子は、ハッと振り向いてわーっという顔を見せたのです。その時のあの顔は50年経っても忘れられないです。しばらく砂場で一緒に遊んでいると日本人のお母さんが迎えに来たんです。お母さんは、自分の子どもが、ゆめゆめ一人ぼっちで遊んでいることは考えていなかったのです。なぜなら、その子はいつも『お母さん今日はこんなに楽しかったよ』と話し、一人で寂しかったとは言わなかったからなんです。涙が出そうになりました。それがきっかけですね。私はこの子たちの代弁者にならなければ、との思いのみでした」と50年を振り返る。

 子どもを思う保護者たちの熱意が早津さんをニューヨークに留まらせた。1975年、クイーンズの中庭のある集合住宅の部屋を借りて、男児2人、女児2人の4人でスタート。81年に市からデイケアセンターとして認可され、非営利団体こどものくに幼稚園が誕生し、その年にクイーンズ区ジャマイカにあった全日制日本人学校の教室を借用して授業を行った。86年にクイーンズ区フラッシングに移転し、一軒家で幼稚園を運営した。この頃には日本人家庭からの入園希望が殺到し、88年にウエストチェスターのスカースデールの教会を借りて2校体制に。94年にNY州教育局から学校法人の認可を得て、正式名称を「Kodomono Kuni School」とし現在のホワイトプレーンズへ移転、5歳児クラスを増設。 96年にクイーンズ園は閉園した。

 「人として成長する基礎となる母国語を習得する大切な幼児期を海外で過ごす日本人の子どもたちのために設立した日本語の幼稚園です」。園の名前には、安全で、自由に意思疎通ができ、楽しい遊びや発見に没頭できる環境をとの願いが込められている。幼少期に日本語を確立してから第二言語を獲得する方が、その後の子どもの学習能力が高いことがバイリンガル教育、継承語教育、日本語教育学を専門とする言語学者・教育学者の中島和子トロント大学名誉教授の論文などでも報告されている。実際に現地校の教師からキンダーまでに日本語をきちんと習得している子どもの方が学習面で成果が出ているとわざわざ電話を園までかけて来る先生もいた。現在50周年記念誌を制作するため、卒園者や保護者の連絡先を探すのに大わらわだ。(三浦良一記者、写真も)

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