ファッションは前向きなエネルギーを放つ

ファッション工科大学 社会科学部経済学准教授

キャッツ 洋子さん

 ファッション工科大学(FIT)は、1944年に設立されたアート、デザイン、ファッション、テクノロジーの分野の学科を擁するニューヨーク州立大学だ。ファッション経済学は、キャッツさんが10年前に同大に提案してクラスとなった新講座。しかし半年ごとの雇用契約更新は、無記名の学生からのアンケートに重きがあり、査定では毎回コメント欄を全部読み上げられる。「教授の英語が全くなっていないから、経済学が理解できなかった」と毎学期言われ続けた。

 「反省を次へのチャンスに切り替えて」、前回より少し踏ん張り、常に一歩踏み込んで「110%のクオリティを目指して」進み続けたことで次第に評価が上がった。「新しいコンセプトを受け入れてくれるニューヨークは、挑戦のしがいがあります」と穏やかな笑顔を見せる。

 だが自分のクラスを持って1年経った時に乳がんの宣告を受けた。36歳だった。健康には人一倍気をつけて生きてきたのになぜ、と裏切られた気持ちで落ち込んだ。抗がん剤治療もきつかった。それでも「自分が作ったクラスは自分で教えたい」と腫瘍内科の医師に相談。辛い治療だけど副作用に対する薬も増えたので、できないはずはないと頑張った。「ファッションの大学で、自分は一体どうやって教えればいいのか。女性のシンボルである髪や胸をなくす治療をしながら、どうしたら自分らしくいられるのか」葛藤した。最初に購入したオレンジウィッグを友人に見せたところ、ブログにファッションを記録していったら? と勧められて始めたブログや抗がん剤治療室の待合室で「あなたのターバン姿すてき、どうやってやるの?」から派生した帽子作りもファンが多い。ファッションが患者の心に寄り添うもので、装う美は、自分だけではなく周囲の人にもポジティブなエネルギーを放つことを実感した。今年、定年がない永久にFITで働ける地位を得た。完治のないステージ4になってから3週間に1度の点滴治療は一生続く。癌患者のかっこいいアート写真の展示会を開くこと、ファッションと経済の分野を多方面から見るようなカリキュラムを作ること、いつかメトロポリタン美術館のガラに招待されること、などまだまだ見果てぬ夢はいっぱいある。「そのためにも生きて行かなきゃですね」。家庭では妻であり母でもある。(三浦良一記者、写真は本人提供)