オフブロードウェー主演女優

米舞台で活躍する俳優 Ako

「モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ モスクワ」。現在オフ・ブロードウェー上演中の舞台のタイトルだけで、演劇好きはロシアの戯曲家チェーホフの名作「三人姉妹」を思い浮かべるだろう。その通り、これはアメリカ人戯曲家が「三人姉妹」を現代の感覚と言葉遣いで翻案した舞台だ。登場人物たちは、自由気まま、心のままに原作の持つ閉塞感を抱える心の内を「隠しているということを隠さないで」立ち居振舞う。
 2017年、マサチューセッツ州の由緒ある演劇祭、ウィリアムズタウン・シアター・フェスティバルでの初演を経てオフ・ブロードウェーに進出した話題作「モスクワ〜」に乳母アンフィーサ役としてキャストに名を連ねるのが、日本人俳優Akoだ。役柄上出番は少ないが、Akoの演技をみていると、作家と演出家がいかにAkoに期待して人物像を創っているかがわかる。
 Akoは、今年のルシル・ローテル賞主演女優賞にノミネートされた。米国では、いきなりブロードウェーで上演される舞台は無く、他州の劇団や演劇祭、ニューヨークのプロフェッショナル劇団による中規模劇場(客席数100〜499席)で初演される作品が、好評を得てブロードウェーにたどり着く。このニューヨーク中規模劇場での舞台公演が「オフ・ブロードウェー」と呼ばれる。ルシル・ローテル賞はこのオフ・ブロードウェー演劇を対象にした演劇賞で、ドラマデスク賞、ドラマリーグ賞、外部批評家賞と並ぶ演劇界において重要かつ名誉ある賞だ。
 東京出身のAkoは元宝塚歌劇団の娘役。宝塚音楽学校を主席で卒業し、宝塚やテレビなどで活躍。退団後1981年に来米してリー・ストラスバーグ演劇学校へ入学。華やかな舞台から一転、誰も知らず、多様性など話題に上らない時代から演劇への情熱を胸にオーディションからこつこつと、ニューヨーク演劇界で居場所を築いてきた。アカデミー作品賞映画「SAYOINARA」のミュージカル舞台化のオリジナルキャスト、BAMでの黒沢明監督映画「蜘蛛巣城」舞台化の主演など女優としての実績を残してきても研鑽を重ねる姿勢は変わらない。
「モスクワ〜」ではロシア人乳母。「もう、やってらんない!人生なんていいことなんもないじゃない!」と叫びまくる20代の「三人姉妹」たちに、Ako演じる老いてゆくアンフィーサの存在が「長い時間を生きる強さ」を示しているような気がした。(河原その子・舞台演出家/公演情報は23面に)