不器用でも精一杯生きる姿描く

小説家

野中ともそさん

 1998年、集英社から小説家としてデビューした作品『パンの鳴る海、緋の舞う空」がいきなり小説すばる新人賞を受賞して文壇に彗星の如く現れた。それまでは音楽ライター、編集者を経て94年に初のイラストエッセイ集『ニューヨーク街角スケッチ』を出版したり、イラストエッセイ集を計3冊出版したりしたが、今では長編小説で本領を発揮している。第2作となる『フラグラーの海上鉄道』は、旅行先のキー・ウエストとブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの取材のために訪れたキューバがきっかけとなり、執筆された作品。『カチューシャ』『チェリー』がそれぞれ、小学館児童出版文化賞、坪田譲治文学賞候補となる。2020年、『宇宙でいちばんあかるい屋根』が映画化され、このほどDVDも発売された(2面に記事)。

 多作だ。著作は「虹の巣」「海鳴屋楽団、空をいく」「犬のうなじ」「チェリー」「おどりば金魚」、翻訳絵本「もぐらのバイオリン」他多数。また、イラストレーターとして、装画、広告イラストなども手がける。自身の挿画による小説に「ぴしゃんちゃん」、イラストエッセイ集は前述の「ニューヨーク街角スケッチ」ほか「カリブ海おひるねスケッチ」「ニューヨーク アンティーク物語」などがある。最新刊はクリーニング店を舞台にした「洗濯屋三十次郎」。絵も描ける小説家としてNYで活躍している。

 明治大学文学部文学科演劇学卒業。東京生まれ。音楽出版社の編集者を経て音楽ライターとなり、国内外問わず多くのミュージシャンを取材。80年代後半から90年にかけて、B’z、久保田利伸等の取材で何度か訪れていたニューヨークに、1992年に移住。「帰国を気にせずに好きなライブを観たかったから」という理由がきっかけだったというから当世代の若い女の子と動機は変わらない。

 来米当時は音楽ライター、エッセイスト、イラストレーターとして活動していたそうだが、取材で訪れたカリブ海の島々やキューバのエッセイを書くうちにフィクションでも表現してみたくなり、小説の執筆に取り掛かったという。

 「私の小説は、ヒーロー的な人間像よりも、生きるのに不器用で精一杯な人々が主体なのですが、そういう人々のささいな心の動きを小説の中で代弁できたらな、という思いは常にあります。表現としては、フィクション、ノンフィクションという枠にこだわらず、何かに深く感銘を受けたり、表現したいテーマに遭遇した時に、それをつきつめ、入念なリサーチも含めて、ひとつの世界観をあらわす作品として完結させられたら理想です」と話す。

 クリエーターとしての将来を聞くと、「このコロナ禍で、長く構想を重ね、これからまさに手掛けようとしていた作品の根底がゆらぎ、一から築き直さないといけないという状況に去年は陥ってしまいました。そこで新たに、今の自分のいる環境と現実に基づいた作品、創作といえどもリアルな時代性のある物語が生み出せたらなと思っています。NYに住んでいるからこそ書ける、ということで、もしかしたらフィクションとノンフィクションの狭間にあるような作品になるかもしれません。一方で、絵を描くのも好きなので以前出版した『ぴしゃんちゃん』に続いて、絵と物語を融合させた本も作ってみたい」と意欲満々。これからも多くのファンを楽しませてくれそうだ。(三浦良一記者、写真は本人提供)