なき母に捧げる舞台NYで

演出家/劇作家
神沢希洋(かみさわ・きよう)さん

 2月末開催のニューヨーク・ウインター・シアター・フェスティバルで自作の「ユヤ」を披露する神沢希洋(かみさわ・きよう)さん。昨年5月にニューヨーク州立大学パーチェスカレッジ卒業、その卒業作品が上演される。
 神沢さんは、卒業制作を考えている時に三島由紀夫の『近代能楽集』を読んで、その文章の美しさに影響を受けたことから、能の作品をアレンジすることを発案、能の「熊野(ゆや)」からヒントを得た。古代の日本と現代の米国、2つの社会に生きる女性が、男性に抑圧されたり軽視されたりするなかで母と再会しようとする脚本を書き、舞台を演出した。台詞だけではなく身体表現も取り入れたのは言葉の壁を超えて感情や物語、魂を表現したかったから。
 演出補佐や舞台監督補佐としてプロフェッショナルな仕事場を経験したが、今回は自ら脚本を描き演出した作品で俳優やデザイナーなどと関わる。「貪欲な役者が多く、形ができていくのが早い」と手ごたえを感じている。
 ドラマトゥルグとしての経験も積んできた。「比較的新しい職種で、社会的・文化的な深いリサーチをして、作者の意図などを演出家に示唆する仕事」と言い、時代考証などもその一つだという。
 日本の大学受験失敗から米国での進学を決めた神沢さんは、「例えば謙遜していたら自信がないと思われる」など、当初は真逆の文化に戸惑ったが、おおらかな校風のキャンパスでシアターパフォーマンスを貪欲に学んだ。「父親に傲慢になったと言われる」と笑う。幼少時から「変わってる」と言われることが多く、「普通とは?」を考えていたと言い、また、日本に帰化した中国人の両親を持ち家庭の内外で違う文化や習慣があったからこそ、異なる文化を演劇で繋げたいという意識が高まったのかもしれないと振り返る。
 ニューヨークでの仕事はさまざまな人との関わりが魅力的だが、生活費が高いのが難点。渡米後に母親のがんが悪化、一時は帰国を決意したが母親も家族も「留学を続けるよう」にと応援してくれた。「ユヤ」は亡くなった母親を意識した作品でもある。東京都出身。(小味かおる、写真も)
ユヤ=28日(土)午後9時、3月2日(土)午後1時、3日(日)午後6時、ハドソンギルドシアター(西26丁目441番地)で上演。入場料は23ドル。https://newyorktheaterfestival.com/yuya