コットン・ポプリンスーツ

イケメン男子服飾Q&A 79
ケン 青木

 皆様、正に戦時下といっていい状況かと思いますが御元気でお過ごしでしょうか? 御自宅に居ても色々と創意工夫を凝らし、また知人・友人の方々とも協力をしつつ過ごしながらなんとかこの難局を乗り切って参りましょう。

 皮肉なもので、私たちの歴史において戦争などの困難な時期にこそ革新的技術が開発されることがままあるものなのです。今から80年前から70年前にナイロンやポリエステルなどの人口繊維が開発されました。どちらも軍服その他軍需品需要を想定しての、従来の綿や羊毛などの天然繊維に代わる、より丈夫でより機能的な生地を目指し、大いに期待されたモノでした。

 ポリエステルは第2次世界大戦最中の1941年に英国で開発されましたが、戦後の1953年、デラウエア州を本拠とするデュポン社が特許を英国企業から買取り、Dacron Polyesterと名付けられて本格的な工業生産が始まったのです。日本では帝人がポリエステルを生産開始、こちらは「テトロン」と名付けられました。つまりテトロンとポリエステルは同じモノであったのですね(笑)。

 第2次世界大戦後そして朝鮮動乱後のアメリカは、こう言うと「Best Is Yet To Come」をモットーとするアメリカ人の友人に怒られるのですが(笑)、1950年代後半からケネディ大統領の時代まで、正に眩しいくらいの「アメリカの黄金時代」でしたが、その時代の男性の装いの中心にポリエステル混紡の繊維があったのでした。それは正に新しい時代の到来を感じさせる新鮮さがあったのです。

 そうした繊維のひとつに綿とポリエステルとを混紡した、いわゆるポリ・コットンのポプリンと呼ばれる生地だったのです。「ポプリン」は日本では平織りと呼ばれ、最もシンプルに縦横に織り上げられた生地でして、シャツ用においてはブロード・クロスとも呼ばれる定番中の定番の生地なのです。従来からの綿100%に比べ、ポリエステルを混紡することでより軽く、より丈夫で耐久性ある生地となったのです。興味深いのは、その混紡率で、例えば綿60%/ポリ40%、綿45%/ポリ55%、綿35%/ポリ65%など用途に応じてさまざまなバリエーションがあり、それぞれに人気であったのでした。

 僕が前職で愛用していた春夏用の綿/ポリのポプリンのスーツは、ベージュ、オリーブ・グリーン、ネイビーの3色でしたが、確か綿45%/55%であったかと。混紡率の違いは各社いかに双方の繊維の良さをバランス良く活かせるか? という命題に対する答えでもあったのでした。加えて、アメリカの綿製品にはサンフォライズド加工と呼ばれます、繊維の縮み防止加工、さらにスラックスにはパーマネント・プレス加工がされ、そのため綿製品でありながらも折り目・クリースがいつでもシャープでパリッと新鮮な気持ちで着れるのです。もちろんネクタイをしてもしなくても、スーツで着ても、また上下をバラして着られてもどちらでもOK! 21世期の今日、個人的にぜひ見直したいと思っているアイテムなのです。それではまた。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。