トランペット 大野俊三、生きる力響く

 ニューヨーク在住のトランペッター、大野俊三が7月30日、イーストビレッジのザ・パブリック・シアター、ジョーズ・パブでライブ公演「メタモーフォシス(変身)」を行った。パンデミックの2020年に出したアルバム「RUNNER」からの選曲で、冒頭に吹いたのは、ドボルザークの「家路」だった。日本人の心にも染み込むこの曲は、大野が小学生時代に見て魅了された映画「トランペット少年」のシーンにもどこか郷愁の思いが重なる。

 1974年3月13日に、アートブレーキーの招きでニューヨークにやってきた大野は、ギル・エヴァンス、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックら多くのミュージシャンと共演してグラミー賞をはじめとする多くの賞を受賞するが、渡米直後の母親の自殺、その後も交通事故、第4期咽頭癌を経験し、その回復の過程で逆境を超えた可能性を見出してきている。今でも、右側の唇、頬、喉、肩から125の筋肉とリンパを切除したため神経がない。73歳。

 「慈悲とは悲しみを慈しむこと。今回の演奏会は自分に優しく、親切にすることで希望を持ち、その生きる力を感じていただける清涼剤になってもらえたら」。大野のトランペットが心に染み込んだ夏の夜となった。(三浦、写真も)