現代舞踊家の田中いづみ、樹のエネルギーを舞台で伝える

 現代舞踊家の田中いづみが1月29日、東京墨田区の両国シアターX(カイ)で、日舞、スペイン、韓国、中国の舞踊家たちで構成されたグループ「peace by dance」の公演「生命(いのち)の樹」を行った。 

 田中は、1987年からニューヨークを拠点に本格的な舞踊活動を開始し、ニューヨーク大学舞踊教育学科の講師を務めるなど20年間NYの現代舞踊界で活躍した。帰国後は、数々の作品を制作、発表、母の石川須妹子氏と主催するダンスアカデミーで指導する傍ら、現代舞踊協会の常務理事として、現代舞踊の発展に努めている。2000年以降は特に地球環境を危惧した作品を発表しており、世代やジャンルは異なるが共通して「つながりあっての平和」を願う同志たちと同グループを創設した。 

 演目第1作目は、田中がスペイン舞踊家の池谷香名子と中国舞踊家の鈴木彩乃のために振付した新作「dialogue」。2人は、田中が舞台でよく身に着けるナチュラルカラーの丈が長めのカーディガンとパンタロン姿で、舞台中心に大樹を想定し、その大樹を通して想いを交わす様子を踊りとそれに伴う気持ちで表現した。田中は「この大樹は『私のようなもの』で、現代舞踊という新たな分野に挑戦する2人を見守っている」と語った。 

 第3作品目の日舞の花柳面氏振付「秘花(ひか)」は、ピンク系のナチュラルカラーのシンプルなワンピースの衣装で田中が出演。同作品は室町時代の猿楽師、世阿弥が記した能言論書「風姿花伝」にある「真の花は散らで残りし」を基に、密やかながら凛と生きる花を魅せる。田中にとっては初の日舞の振付で「日舞は振りが抑えられているので、普段は足を上げるなどのテクニックや大振りな動きが入る現代舞踊家の自分としては、限られた動きやボリュームの演出でどう表現できるかが勝負どころだった。花柳先生のアドバイス『いづみさんは身体はよく動くし何でもできてしまうから、今回は我慢して、思うように動けない人のように窮屈ななかから動きを練りだすように』はとても勉強になった」と話している。 

 最後は、5人のメンバーがそれぞれのジャンルでも白に統一した衣装で演目「生命の樹」を踊った。昨年9月から制作をスタートし、まず作品のコンセプトを「色とりどりの花々も根本は一つ。一つの源を分かち合って生き、すべては一つに繋がる」に決めた。それぞれの専門分野で活躍する多忙な5人だが、週2回は時間を作り、作品と舞台の構成、振付、練習、修正を繰り返しながら試行錯誤し本番に至った。同作品では、金と銀の水引きできた「樹の根、つまり魂」のオブジェを使う場面もあり、「道は違うが、同じ志のもとに踊りを通して『生命の大切さ』を5人で表現した」という。(浜崎都記者、写真・清水洋子)