海外の日本人給付金なし

総務・外務省が適正給付の課題を整理

 日本政府は9日の閣議で、新型コロナウイルスの緊急経済対策として支給される1人10万円の「特別定額給付金」について、海外在留邦人は給付対象外とする答弁書を決定した。

 立憲民主党の矢上雅義氏の質問主意書に答えたもので、給付金は、今年4月27日時点で住民基本台帳に記録されている人が対象。自民党内には在外邦人も対象にすべきだとの意見があり、同党の岸田文雄政調会長は今月5日、日本国民1人あたり10万円を支給する特別定額給付金の対象に海外在住の日本人を加える方向で調整していることを明らかにしていた。

 菅義偉官房長官は記者会見で「海外に在住する方々にどのように適正な給付をするという問題もあり、関係省庁で課題を整理している」と述べるにとどめた。日本政府は4月20日に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定され、総務省に特別定額給付金実施本部を設置。特別定額給付金は、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の一環で、国民1人あたり一律10万円を支給する制度。679市区町村が、5月1日から受け付けを開始した。給付対象となるのは、4月27日時点で住民基本台帳に記録されている者となっており、海外にいても、住民票を日本に残している人は、規定上受給資格があるとみられるが、実際に現段階で、海外在住者への給付を行なっている地方自治体があるかは不明。事業費は12兆8802億9300万円。関連報道によると、岸田発言は、4月27日、自民党の青山繁晴参院議員が代表幹事を務める党内の保守系議員グループ「日本の国益と尊厳を護る会」が、新型コロナウイルスを受けた経済対策に関する要望書を岸田政調会長に提出したことを受け答えたもの。

 青山氏は、海外邦人への給付を提言した理由について、海外在住の邦人から同氏に対し「私たちは捨てられたのか」「日本国内の外国人には給付があるのに、同じ同胞なのに海外にいるというだけで給付がないのは日本国民としておかしいんじゃないか」という声が寄せられたからだと明かしていた。米国では、コロナ生活支援対策として納税者1人に一律1200ドルがすでに給付されていることもあり、在外者は現金給付すべき対象にはあたらないとの指摘もあったという。

海外邦人を見捨てた?
いや、既に現地で支給も
受給資格認定に難題

 「海外に住む日本人は少なくとも140万人いる。事実上、見捨てるのかという事になっている」そう日本で報道関係者に語った自民党内の保守系議員グループ「日本の国益と尊厳を護る会」代表の青山繁晴参院議員。一律10万円の海外在留邦人への支給を岸田文雄政調会長に提言した理由について、海外在住の邦人から「私たちは捨てられたのか」「日本国内の外国人には給付があるのに、同じ同胞なのに海外にいるというだけで給付がないのは日本国民としておかしいんじゃないか」という声が寄せられたからだと述べている(1面に記事)。

 関係報道によると、これを受け岸田氏は「非常に大事なことだ。必ず何かを考えるようにしたい」と応じたという。実際、岸田政調会長は5日の総務会で、1人あたり10万円を支給する特別定額給付金の対象に海外在住の日本人を加える方向で調整していると明らかにした。2020年度第2次補正予算案で関連する経費を確保したとまで言っていた。鈴木俊一総務会長が記者会見で説明している。それが4日後に翻った。

 安倍首相は一律10万円給付の方針を発表した記者会見では、「国民の皆様と共に乗り越えていく。その思いで、全国全ての国民の皆様を対象に、一律に1人当たり10万円の給付を行う」と述べていたが「全国全ての国民」から海外在住の日本人は外れていた。

 岸田氏は「実態把握をしなければならない。外務省にどのようなシステムを作れば支給できるか申し入れた」と話したというが、菅官房長官の発表によれば、今なお海外に在住する人々に対してどのように適正な給付を行うかという問題もあり関係省庁においてそうした課題の整理を行っているとしている。実際に海外配布の面で公平で適正な方法を探ること自体、かなりの難題を抱えていることも想像できる。

 給付金の海外受給対象者は一見、日本国民として在外選挙に投票している海外の有権者が支給対象有資格者に見えるが、投票するための在外選挙人登録は、日本の住民票を抜いて海外に3か月以上滞在している人となっているため、日本に住民票がない。また海外在住者はマイナンバーを持っていないなどの問題がある。さらに海外在住の日本人は、米国の1200ドルなど、居住している国の政府からの給付を受けている例もあるほか、日本政府の緊急事態宣言による生活への直接の影響は海外にいるので比較的小さく、現金給付すべき対象にあたらないとの指摘もあったという。

 しかし、パンデミックで海外に足止めをされ、帰国がままならない日本人も今なお多い。そんななか、日本国内の親が危篤で、ニューヨークから飛行機を乗り継いで万難を排して帰国してきた日本人会社員は「同情するなら金をくれというフレーズが昔あったが、金やマスクは無理してまでいらないが、海外在住の日本人に向けた安否を気遣う言葉の一つも首相の口から聞きたかった。海外は眼中にないのではないか」とポツリと話した。