チェスターフィールドコート

イケメン男子 服飾Q&A65

 皆さま、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 この冬は今までは意外と暖冬のようなのですが、今回は新年早々新たまったコートの装いについてお話しいたします。チェスターフィールドコートについてです。例年より暖冬の趣もあるとは言え、油断するとすぐに思い切り冷え込むのがニューヨークの冬ですよね(笑)。
 チェスターフィールドコートとは、御存知の方も多いかと思いますが、スーツの上に着用する、最もフォーマルなコートなのです。その出自は、スーツの原型
ができたと言われる19世紀の半ばの同時期にその原型ができたものであり、フロックコートなどにもデザインが派生されたとも言われております。フロック、またはフロックコートとは、明治の元勲 伊藤博文、大久保利通らが着用していた膝丈の上着と言えば思い出していただけるかと存じます。
 デザイン的な特徴は、(1)まず襟はスーツのそれと同じで、ノッチドラペルと呼ばれる刻み襟か、ダブルの上着によく見られるピークドラペルと呼ばれますトンがった襟でして、(2)さらには正面ボタンが隠れて見えない比翼仕立て、英語ではフライフロントと呼ばれる仕様が特徴です。(3)加えて丈が短くとも膝丈であること、(4)色はチャコール・グレーか黒、(5)素材はメルトン、もしくは高級品においてはカシミヤが用いられます。メルトンとは、いわゆるフラノ、またはフランネルと同じ毛羽立った生地なのですが、オーバーコート用に厚手、即ちヘビーウエイトに織った素材だと考えていただければ解りやすいかと。
以上、デザイン的なイメージとしてはスーツの上着を膝丈まで伸ばした印象で、繰り返しますが、上前のボタンが見えない、フライフロントと呼ばれる仕様となっていることがチェスターフィールドコートを際立ってあらたまって見せる、即ちフォーマルに見える仕様であることが大きなポイントとなっていることが御理解いただけるのではないでしょうか。(6)さらにもう一つ大きな特徴を加えさせていただきますと、カラーの部分、上襟に黒のベルベットが用いられているタイプがあるのですが、これはフランス革命によって亡くなられたマリーアントワネットはじめ、フランス貴族への哀悼を表したものと言われ、実はチェスターフィールドという名も英国において、その身嗜みの良さで知られたチェスターフィールド伯爵に由来すると言われているのですね。
 ここしばらくの間、男性用のコートは膝上丈で、襟のデザインもバルカラー(日本ではステンカラーなどと言われておりますが、これは和製英語です)と呼ばれます、レインコートの襟によく見られるもの、ポケットもスラッシポケットと呼ばれます、斜めでスポーティ、カジュアルな印象のものが多かったのですが、ようやくにして流行にも変化が出てきたようで、即ちクラシックへの回帰が見られ、とても良いことだと個人的には思います。
当然ながらコートの丈は膝上、もしくは膝下までの方がより暖かいですし、生地についてもヘビーウエイトの方がより丈夫で長持ちもしますから。デザインは確かにとてもフォーマルなのですが、このようなデザインのコートをウイークエンドにジーンズとセーターの上に羽織って外にお出掛けになられるのも良いものです。コートの上に着られるものはないわけですから、一番上に着られるものが上品で仕立てが良ければ、カジュアルなスタイルもそのままグレードアップして見せてくれるのですね。それではまた次回。
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。