子どもの権利を守る本

国際子ども権利センター・著
合同出版・刊

「子どもの権利条約」が国連で採択されて30年、日本が批准して25年。東京に本部を置く「シーライツ:国際子ども権利センター」代表の甲斐田万智子さんを中心に国内外の31人が筆を執ったのが本書『世界中の子どもの権利をまもる30の方法:だれひとり置き去りにしない!』。
「子どもの権利」と聞くと、人身売買、児童労働、子ども兵士…発展途上国の子どもたちが直面する問題だと考える人も多いだろう。しかし、甲斐田さんたちは、日本の子どもたちにとっても決して他人事ではない。日本の多くの子どもたちが自分たちの権利を知らされていない、また学校の先生や子どもに関わる人々でも限られた実践をおこなっていると感じ、「子どもの権利条約」節目の年にあたる今年、本書をまとめた。 
 例えば児童虐待。この28年間は増加の一途で昨年度は16万件を超えたという記事を見た。本書によると「子どもの権利」第19条では「子どもは暴力から守られる権利がある」、第25条では施設で暮らす子どもの状況を定期的にしらべることを定めている。本書ではこうした法律の説明をした後で、「子どもは家庭で健康に育つ権利を持っている」と促し、つらい思いをしている時は相談しよう、と導く。
 例えばフリースクール。義務教育の「義務」は子どもが学校に行く義務ではなく、大人が子どもに普通教育の機会を保障する義務として、子どもには何らかの理由によって学校に行きたくない、行けないときは行かない権利があると説明が続く。
 甲斐田さんは、日本では子どもに「子どもの権利」を教えるとわがままになるという誤解があると綴る。確かに私など、部活の先生にはなぐられ、親に口ごたえしたら寒い玄関の外に立たされ「バカ」と言ったらほっぺたをつねられた。しかし時代は変わった。日本では今年6月、児童虐待防止表と児童福祉法が改正され、親による体罰が禁止されることになった。
 本書の冒頭で、カンボジアの小さな村での会話が紹介されている。子どもたちに「一番大切なものは何か?」と尋ねたら「権利。差別されないから」と答えたという逸話。その村こそ、20年ほど前に私がカンボジア南東端のスバイリエン州で教育事業に携わっていた際に、子どもたちがベトナムに物乞いに行き登校しないと嘆く校長先生に会った村だ。国境を越え困難に遭う子どもたちの状況に心を痛め、当時カンボジア在住だった甲斐田さんに状況を話した。村の貧しさを思うと子どもの越境物乞いを辞めさせられないと思ったが、甲斐田さんたちが事業を開始し、子供を主人公にして子どもとともに問題解決してきたからこその変化だ。甲斐田さんは普段はとても穏やかな人だが「子どもの権利を守る」という点に関しては屈強な意志と行動力の持ち主。本書は、子どもたちにぜひ読んでもらいたいとともに、子どもは黙っていなさいなどと育った私自身ももっと、未来を担う子どもたちのことを理解するために学ばなければならないと感じた。(小味かおる)