日本の真の魅力とは

ヘンリー・S・ストークス・著
SB新書・刊

 昭和から半世紀以上、日本を取材し続けた伝説のイギリス人ジャーナリストである著者自ら「遺言」と称する本書。随所に日本への深い愛が感じられる文章で、日本人よりも日本が好きだという雰囲気が伝わってくるのも読みどころの一つだ。

 著者のヘンリー・S・ストークスは1938年にイギリスで生まれ、61年にオックスフォード大学を卒業。62年に「フィナンシャル・タイムズ」に入社し、64年には東京支局立ち上げのため来日して初代支局長となった。その後、「ロンドン・タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」の東京支局長として活躍した。
 人生の3分の2以上を東京で過ごしてきた著者はもはや「日本人同然」といってもいいだろう。しかし、かつては日本という国と、その文化を大いに誤解していたというのだ。というのも、幼少期を第2次世界大戦の真っただ中で過ごしており、周囲の大人たちから「日本は野蛮で残酷な国だ」と教えられて育った。
 しかし、記者として日本で働き、さまざまな取材を通じて分かったことは、日本には世界でも類を見ないほどの洗練された「文化」、自分自身よりも他者を重んじる清らかな「精神性」、そして江戸の昔から脈々と受け継がれてきた「モノづくり精神」を土台とする「最新テクノロジー」があるということだった。
 また、先の戦争に「勝った」国の歴史観を無意識に信じ込み、日本文化を「不当に過小評価」している日本人が非常に多くいることに気づき、その現状が残念に思えてならないという。
 そういったことから、世の中の人々に「真実」を伝える「ジャーナリスト」として、日本の素晴らしさを多くの人々に伝えたいという熱い思いから本書は書かれた。
 著者のいう日本の素晴らしさとは、洗練された文化や伝統、美学のことである。これらは長い歴史の時間を経て現代にもたらされた「宝物」であり、その例として「他人の気持ちをおしはかること」をあげ、これは世界中で日本人が持つ優れた感性のなせる能力だと語る。
 このような精神的な特性をたっぷり解説した後、日本は侵略国家ではない、と本書は続く。
 西洋諸国が植民地から搾取して繁栄したのに対し、植民地化が進むアジアの中においてそれらの介入を阻止した日本は、朝鮮半島や台湾、満州にインフラを整備し教育を施した。アジアを発展させ、西洋諸国に対抗することを試みたのだ。日本がアジアで戦った相手は欧米諸国だったのである。欧米諸国の間で戦後一貫して日本への憤りが蔓延していたのは、有色人種に広大な植民地を奪われ、次々と独立国が作られたことに対する悔しさからであり、最終的に敗戦国となった日本は、その認識を輸入する形になったというのが真相である。
 2019年、31年続いた「平成」が幕を閉じ、新たな元号「令和」へと変わるのをきっかけに、「日本と日本文化の真の魅力」を再発見するツールとして、本書を読んでみてはいかがだろう。(西口あや)