労使馴れ合いの恐怖

牧 久・著
小学館・刊

 第二次世界大戦が終わり、その直後から始まった米ソ東西対立〜冷戦は日本にも強く影響した。GHQによる民主改革の洗礼は、戦犯追放、女性参政権付与、農地解放、財閥解体と進み、その頂点に武力放棄と非戦を誓う平和憲法がある。
 一方で労働組合の組織化が進み、国鉄(現JR)の組合は最盛時50万人と言われ、総評の中核組織として保守の自民党と対決する日本社会党の支持部隊を担っていた。
 ところが産業のインフラとして近代化の最先端を走っていた国鉄はマイカーブームの到来とともに赤字路線が増え、累積赤字は総額37兆円を超えた。
 政治家・中曽根康弘は赤字解消を目的に国鉄の分割・民営化を図る一大改革をめざした。同時に国労潰しを狙った。
 著者、牧久は日経社会部記者として、国鉄本社記者クラブである「ときわクラブ」で国鉄解体・民営化を見つめてきた。本書によればその国労の崩壊が新左翼、革マルとJR当局の野合だった、という、極めて理解に苦しむ醜怪な裏話である。
 牧は2017年3月、『昭和解体〜国鉄分割・民営化30年目の真実』(講談社刊)を上梓、517ページに上るこの分厚い大冊の書は本体2500円という高額にもかかわらず6版を重ねるベストセラーとなった。
 本書『暴君』はその続編で、JR総連の名のもとに革マルの指導者、松崎明が動労を乗っ取り、経営当局と手を組んで組織を私物化、一方では中核との凄惨な内ゲバ殺人を繰り返したという怖い話。ヘルメットに鉄パイプを持ち集団で対立を襲い殺す革マルの実態を描いた。主要メディアが避けて通ったJR改革3人組や労組関係者のメモ、証言を集め、実名でその実態を暴いた本格的なJR裏面史である。
 しかも革マル政治勢力は未だ残存し、今後どう動くのか誰も予想できないし、実態の全容は明らかになっているわけではない。
 JR北海道では社長が2代続いて自殺に追い込まれた、という悲惨な現実もあり、革マルの実態は依然闇の中だ。2018年春、JR総連東労組から3万4500人が脱退、この大脱走でかつて〃鬼の動労〃と言われた機関士たちの労組など風前の灯に晒されている。
 牧は日経記者であるとともに経営者として労務を担当した。国家が崩壊する過程を生々しく描いた『サイゴンの火焔樹〜もうひとつのべトナム戦争』、新幹線建設に賭けたドキュメント『不屈の春雷〜十河信二とその時代』(ウエッジ社、上下2巻)、さらに未完に終わった『満蒙開拓 夢はるかなり』(同、上下2巻)など日経退職後、精力的に記者時代に取材した現代史を具体な読み物として蘇らせ興味深い。
 「同時代の目撃者として書き残したい」という著者の弁。1941年大分県生まれ。早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社記者、社会部長、副社長を経てテレビ大阪会長。馴れ合った労使の暴力、教訓としたい。(北岡和義/ジャーナリスト・ 元日大特任教授)