グレーフランネルを着た男

イケメン男子 服飾Q&A 62 ケン 青木


 この秋冬、紳士服におきましては英国伝統の素材、生地が見直されているようです。とても良いことだと思います。前回、「ギャバジン」についてお話しさせていただきました。そしてギャバジンには、ウールとコットンの2種類の素材があると申し上げました。
 今回はフランネルについて書いてみたく思います。フランネルは極めて英国らしい生地であり、一見フェルト状、醸し出される雰囲気はカジュアルというより正確にはスポーティーというべきでしょうか。見るからに暖かみが感じられ、個人的にも大変好きな素材であり、いかにも秋冬物と疑うこともないのですが、フランネル、実は夏物だった! という歴史的事実があるのですね。昔、テニス選手が白のスラックスやロングスカート姿でプレーしていた写真を見られたことがおありかと思いますが、実はあの生地はフランネルだったのです。いわゆる、ホワイト・フランネルですね。ウインブルドンにおいて選手たちは皆フランネルを身に付けていたのでした。現代に比べて19世紀から20世紀始め頃までは地球が寒冷期だったようで、そのため世界的に飢饉も多かった時代なのだそうです。
 さて、フランネルにもギャバジンと同様、ウール・フランネルとコットン・フランネルの2種類があるのですが、なぜか私たち日本人は、つまり日本においてですが、フランネル地、ウール素材についてはフラノと言い、コットン素材のものはネルと言い習わしているのです。もしかしたら若い方は御存知ないのかもしれませんが。でもどうしてこのような区別の仕方になってしまったのでしょう? 不思議なのです。皆さん、冬の寒い日にネルのパジャマ、着られたこと、ありますよね?
 コットンフランネル地は、チェック柄のプリントなどで秋冬用のシャツに利用されることが多いのですが、ウールフランネル地は、実にさまざま、多彩な使われ方がされております。  男性、女性用を問わず、ジャケット、スーツ、スラックス、スカート、ヴェストなどなど何でもござれ。特にウールフランネル地のネイヴィーブレイザーは定番で、これに色違いのグレーのフラノ地の、dえきれば濃いめ、明るめ、中間と3つの異なるトーンのグレーのスラックスをお持ちですとコーディネートに困ることはまずありません。グレーのフランネルのスーツも良いですね。このスーツこそ、オンオフどちらでも着れる便利この上ない服なのです。お休みの日、寒いようでしたら黒やダークグレーのタートルネックを合わせ、靴もスウェードの靴などを合わせてみましょう。上着には、チケットポケットとかチェンジポケットなどと言われる、小さなポケットを付けてみられたりされますと英国的雰囲気が醸し出され、少し堅い雰囲気もとれてなかなか良いものです。もう半世紀以上 昔の映画ですが、「グレーフランネルを着た男」というグレゴリー・ペック主演の映画がありましたっけ。
 それではまた。
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。