家族と愛をものがたる、岸田奈美さんNYで講演

 日本で大人気のエッセイスト、岸田奈美さんが4月21日、ニューヨークで家族とともに講演会を開催した。奈美さんは、車いすの母、ダウン症の弟、認知症の祖母との波乱万丈な自身の人生を「100文字で伝えられることを、2000文字で伝える」ことをテーマに綴った作品で話題になった。3年で500記事を超えるnoteは100万人以上に読まれ、4冊に書籍化され、なかでも処女作「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」を原作とした連続ドラマが5月からNHKBSプレミアムでスタートする。(写真上:前列左から倉本美香さん、岸田ひろ実さん、岸田奈美さん)

 講演の前半では、母娘が2019年に初めてニューヨークを訪れた際に実感した体験談を披露。米国在住者にとって日常的で「ガサツ」と感じるカフェでのぶっきらぼうな対応でさえ、車いすユーザーの母ひろ実さんにとっては「助けてと言えば助けてもらえるし、何も言わなければ自由に放っておいてもらえる。その距離感が心地良い」、「ニューヨークは世界で一番自分らしくいられる、大好きな街」だと宣言。岸田家では、コロナ禍を経て「戦略的一家離散」を実施。奈美さんが「自立とは、頼れる先を増やすこと。家族を愛するとは、愛せる距離を探ること」と結ぶと、会場からは共感の拍手が起きた。

 その後、日米で活動する作家・コーディネーターの倉本美香さんが合流。倉本さんは両眼性無眼球症を含めた重複障害を持つ長女と家族がコロナ禍をどう過ごしてきたか、障害を持つ家族のプライベートを発信する勇気や覚悟、そして伝える先にどんな想いがあるか等を岸田母娘とクロストークした。参加者との質疑応答では、悲劇を喜劇に変えて伝える奈美さんの心情、書けなくなるという苦悩、伝えたい相手との距離感など、オフラインでしか聞けない本音が次々と語られた。MCはFCIニュースキャスターの久下香織子さんが務めた。

 会場となったAll Souls NYC Reidy Friendship Hallには、ニューヨークのみならず、カリフォルニア、ピッツバーグ、ワシントン、さらには日本からもファンが訪れた。岸田家と倉本家を応援したいという匿名のファンから贈られたジュエリーの協賛品を、弟の良太さんが会場の参加者10人にラッフルで贈呈するサプライズもあり、最後は書籍の限定販売とサイン会と、盛りだくさんの内容で幕を閉じた。