見失わない勇気

Boy Erased
シネマ試写室

アメリカでは同性愛者を含む性的少数者LGBTへの理解が急速に進んでいるように見えるが一部大都市に当てはまってもまだまだ差別が続いている。
ゲイから異性愛者に転向する「コンバージョン・セラピー」なるものが一種の治療プログラムとして存在しているのが現状だ。
本作は過去にコンバージョン・セラピーを受け、それがいかに当人に精神的・肉体的苦痛を与え、人生を危険にさらすかを回顧録にまとめ発表したギャラード・コンリーのノンフィクション・ドラマだ。
サイコ・スリラー「ザ・ギフト」(2015年)と同様、ジョエル・エジャートンが監督・脚本・製作・出演を担当。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(16年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされた若手ホープ、ルーカス・ヘッジスが今回も心揺さぶる演技で注目される。ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウの両アカデミー賞俳優ががっちり脇を固める。
ジャレッド(ヘッジス)の父親(クロウ)は車ディーラーのオーナーでありバプティスト教会の牧師だ。ジャレッドはいずれその両方を継ぐ立場にある。両親の愛に育まれ素直で優しい子に成長、勉学にスポーツにと高校生活をエンジョイ。しかし、大学に進学し学生寮で生活をするようになり、ジャレッドの心の中に不思議な感情が生まれつつあった。それが性的指向であることに気付いたのはゲイの学生仲間からレイプまがいの行為をされそうになった時だった。
友人のアプローチは拒絶したものの、一旦その自我に目覚めてからは混乱した。自分は牧師の子だ。自分がゲイだなんてあるはずがない、いやあってはならないことだ。
ゲイであることを認めたジャレッドは親から絶縁か矯正プログラムを受けるかの選択を迫られた。彼は家族ためにも「どんなことをしても治したい」と両親に訴えた。それは正直な気持ちだった。しかし、現実は予想した状況とは驚くほどかけ離れたものだった。
悲痛な叫びと共にがんじがらめに縛られたジャレッドの心がゆっくりと力強く膨らんでいく様がパワフルに描かれる。1時間54分。R。(明)

(Photo : Focus Features)

 

■上映館■
AMC Loews Lincoln Square 13
1998 Broadway

Angelika Film Center
18 W.Houston St.