喜多流の能NY公演喜多流の能

ジャパン・ソサエティーで

「時代と共に変化も」
人間国宝 友枝昭世

 ジャパン・ソサエティーは(JS)、12月1日から3日まで、2016年の公演でも好評を博した喜多流の能楽師たちが、日本でも上演されることが稀な楊貴妃の健康回復を語る『皇帝』と、長寿を寿ぐ『枕慈童』の2作品を披露した。パンデミックという世界的危機からの早期復活を祈念する公演となった。

 3日間とも250席が満席となる盛況で、通算750人が、ユネスコの無形文化遺産に指定されている能五流の中でもっとも武士気質が強く力強さが感じられる喜多流の芸の真髄を堪能した。

  3日夜に上演された『皇帝』は、玄宗皇帝が大病の楊貴妃の容態を案じているところに鍾馗の神霊が現れ、病鬼を追い払い、妃の病を治すという物語。日本でも滅多に舞台上演されることのないレアな作品だがJSの塩谷陽子芸術監督のリクエストで実現した。

 友枝昭世(あきよ)氏は1940年生まれ、東京都出身。シテ方喜多流・友枝喜久夫の長男。重要無形文化財(人間国宝)に認定。今回の公演では、1日と3日の公演では第一幕「頼政」、2日の公演では第一幕「忠度(ただのり)」でソロを演じた。 

 友枝雄人氏は昭世氏の甥で、3歳から子役として舞台に立ち活躍している。JSで、前回2016年に公演した際も来米している。本公演では、1日と3日は地謡で出演、2日の公演では第二幕の「枕慈童」でシテ(枕慈童)を務めたほか、一般向けの能ワークショップなどでも指導した。

 昭世氏は「昨日、今日の観客の反応は我々から見ると、とても満足のいくものだった。1964年にフルブライト招聘講師プログラムに参加して、ニューヨーク高等学校演劇研究所の招きで来米した当時を思い出した。あの時は、舞台に立つまでセリフが日本語のままだと理解してきたが、契約では全て英語だと聞いてびっくりした覚えがある。通訳をつけてその場で英語で全部やったのを思い出す。その一説は今でも覚えていますね。時代とともに社会が変わるのと同じように、700年続いてきた能もまた真っ直ぐの一本ではなく、時代に即して動いている。新作も多くなったし、女性が登場するようになったし、相当変化していると思いますね」と話す。

「人間関係に潤いを」

友枝雄人の目指す能

 雄人氏は「昭和が終わってからのいろんな時代の流れはかなり変化しており、スマホが登場したりして情報の速さと量の多さがどんどん人間の心に入りこんできて何か、人と人との間がちょっとドライになりすぎている感じが常々している。舞台活動が社会に貢献できるかなどは考えたことがないが、これからの時代は、能というのがどの時代の人の心にも訴えてきたものなので、人間と人間の関係に潤いを与える元の本来の姿に戻せるようにできたらいいなとちょっと思っている。コロナの間、国の助成を受けるために、動画配信をどんどんせよと一気に言われてきたが、我々能楽士たちはそういう映像に特化したことをやってきていなかったので、お茶を濁したような動画がいっぱい流れてしまっていて、効果が出ていない。これからは時代に即した、映像としての美とこういう3日間満席になるようなライブとしての対面の両立を模索していかなくてはならないと思う」と語った。

 能を演じる上で一番大切なことは「やはりこちらの気がお客さんにどれだけ伝わるか、気ですね」と昭世氏。雄人氏は「僕は叔父からその気を学んでますが、稽古を怠らないこと。具合の悪い稽古を重ねても無駄だと言われているので、いかにクオリティの高い稽古を常に考えながらするかということですね」と語った。(聞き手・三浦良一記者、インタビュー写真も)

(写真上:© Ayumi Sakamoto)