自分でエンジンかける力を

ビリギャルのモデルだった

小林さやかさん

 小林さやかさん(34)は、坪田信貴著のノンフィクション『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称・ビリギャル、2013年KADOKAWA刊)の主人公となった人物だ。本は、日本で120万部のベストセラーとなり、2015年には土井裕泰監督、有村架純主演で『映画 ビリギャル』が公開され280万人が見る大ヒットとなり社会現象になった。これまでに講演を日本国内で500回以上、本が出版されて7、8年経ったコロナ直前でも年間120回もの講演をしていた。

 この9月からニューヨークのコロンビア大学教育大学院に2年間留学するため先月来米した。米国生活をスタートしてまだ1か月。現在は、語学クラスを履修中だが、とにかくニューヨークで見るもの接するもの何もかもが新鮮な感動で溢れているという。語学クラスで知り合った学生たちとも仲良くなって毎日、日記に書くことがいっぱいだそうだ。

 愛知県名古屋市で高校2年だった夏、母の勧めで塾の面談へ赴いて坪田信貴氏と出会い、慶應義塾大学に現役合格を志した。坪田氏の懇切丁寧な指導で猛勉強に励んで1年半で偏差値が40上昇した結果、第一志望の慶應義塾大学文学部と上智大学には不合格だったものの、慶應義塾大学総合政策学部・関西学院大学・明治大学への現役合格を果たした。

 本が出版されたのは、大学卒業後、冠婚葬祭会社でウェディングプランナーとして勤めていた時だった。「勇気づけられて頑張れた」という感謝の声があった一方、「もともと頭が良かったんですよね」や「自分にはできない」という自己肯定感の少ない人からの声も多かった。500回も講演しているうちに「私が講演して回るだけでは何も変わらないのかもしれない」との不安が募った。

 2019年3月、初の著書『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)を出版。日本全国からの講演依頼は続いた。

 2021年3月、聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻教育研究領域博士前期課程修了した。「昔の私がなぜ、頑張れたのか」を科学的に証明するため「学習科学」という分野の研究をする心理学のゼミで学んだ。その結果、勉強の頑張りは、遺伝だけではなく「学習環境が大事」だということが分かった。

 「聖徳太子」を「せいとく・たこ」と読み、日本地図を描いてみてと先生に言われて「まる」を描いた高校2年の時の小林さんを慶應に向かわせたのはいったい何だったのか。

 坪田氏から「東大行く?」と聞かれ「イケメンのいる大学がいい」「なら慶應ボーイのいる慶應か」「わあ、めっちゃウケる。櫻井翔くんのいる慶應!」。それが小林さんのエンジンのスイッチが入った瞬間だった。「動機は不純と怒る人はいるかもしれないけど、それでいいと思う。自分にエンジンがかかったんだから。好きな人と同じ大学行きたいとか、なんでもいいんです。子供を自動車に例えると、エンジンがかからない車を親が後ろから力ずくで押しているような光景を数多く見てきましたからね」。

 では子供が自分でエンジンをかけることができるために、親ができることはなんですかと聞くと「子供と対話すること。押し付けとか命令ではなくて、子供が「僕はこう思う、私はこう思う、なぜならこうだから」と言える環境が一番大事です」とキッパリ答えが返ってきた。「私が頑張れたのは、自分でエンジンをかけられたこと、いいコーチの坪田先生がいたこと、サポートしてくれる家族がいたからです」と話した。(三浦良一記者、写真も)