タウンスーツを普段着に

 早11月も半ば、サンクスギビング目前、そしてそろそろ街はクリスマスの準備、ニューヨークが一年でもっとも華やかなシーズンの到来ですね。 

 昨今はクリスマスよりホリデーという言葉をより耳にする気がいたしておりますが、ま、クリスマスでいいじゃあないですか(笑)。

 ニューヨーク生活さんには御蔭様で長いこと御世話になり、連載させていただいております。紳士服も「季節モノ」ですのでネタが以前のコラムとダブったりすることも勿論あったりするのですが、その都度調理の仕方や味付けについてしっかりと変えているつもりです(笑)。そんな次第で今回の「フランネル」につきましても過去に数回取り上げておりました。

 数年前でしたか、グレゴリー・ペック主演の映画”The Man in The Gray Flannel Suit邦題「灰色の服を着た男」(1958)でのペックのスーツ姿の全身写真を御紹介しました。

 その写真、今は店舗が無くなってブランド名だけになってしまったBarney’s New Yorkが、しばらくの間彼のスーツ姿のシルエットを同社紳士服のアイコンとして使っておりました。それは何故だったのでしょう? あっ! 日本国内のバーニーズは御店を持って頑張られておりますね、念のため。

   で、(1)フランネルについて、そして(2)なぜバーニーズはグレゴリー・ペックのスーツ姿だったのか?ですね(笑)。

 フランネルはギャバジンと同様、ウールで織られた生地と綿で織られた生地との2種に分けられますが、なぜか日本においてはウール地をフラノ、綿地をネルとフランネルを前後で分けて呼んでいるのですね(笑)。不思議(笑)。皆さんの中にもふんわりソフトで暖かいネルのシャツを秋冬に愛用されている方も少なくないかと。英語ではCotton Flannelと直球ですね、当たり前ですが(笑)。

 僕の御客様の多くは僕と同世代の方が多く、この四半世紀余のビジネス環境の変化で背広、いや、スーツを昔のようには頻繁、毎日は着なくなっているのが現状かと。既にリタイアされておられる方も。

 明治開闢以来何かと言われてきた私達日本男子のスーツの着方、着こなしですが、今日の様な時代の一大転換期にこそ一気に意識転換しえるのではないかと思うのです。で、一気に名誉も挽回と(笑)。

 皆様はスーツには大きく分けていくつのカテゴリーを御存知でしょうか? 多くの方はビジネス・スーツとフォーマル・スーツくらいしか思い浮かばないかもしれませんが、プライベートな御洒落着の意味である、[タウン・スーツ]というカテゴリーについて私達はほとんど意識していなかったのではないでしょうか?

 私は「フランネル」こそ秋冬のタウンスーツの本命と考え、自身でも長年愛用いたしております。三つ揃いで御求めされますと上着、ヴェスト、パンツそれぞれ一緒に着たり、バラして着たりと組み合わせも自在なのです。

 そして前回も触れましたが、フランネルのスーツにカシミヤやハイゲージ・ウールのタートル・ネックのセーターやチェック柄の「ネル」のシャツを合わせたり、靴もスウェードのブーツを合わせたりと、ビジネス・スーツとは趣が全く異なるムードを醸し出すことが出来るのです。そうした想像をグレゴリー・ペックのグレー・フランネルの三つ揃いから想像されてみてください。チェック柄のフランネル地の三つ揃いもお薦めです。

 グレゴリー・ペックの写真から学んでいただきたいこと、それは三つ揃いが襟元からトラウザーズの裾まであたかも一筆書きで描いたような柔らかな曲線、ラインを描いて一体化していること。ですからスッキリ、スマートに見えるのです。三つのパートが一体化して見える、故にsuitなのです。ホテルのsuite roomのsuiteと語源も一緒。(笑)。リラックスしたスーツを普段着に。いいですよ(笑)。

 それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。