夏は半袖ボールドストライプ

イケメン男子服飾Q&A 84
ケン 青木

 夏の暑い盛り、今回は綿や麻の布地の半袖シャツ、それもボールド・ストライプについてです。前回「コロナ不況」にも巻き込まれてのブルックス・ブラザーズ社のチャプター11申請について書きましたが、以前も触れましたがボタン・ダウンシャツは同社の発明商品であり、19世紀末に至るまで男性のドレス・シャツ(ネクタイを締めることを前提のシャツ)はハードカラーそしてハイカラーで、シャツの襟と袖はディタッチャブル、取り外し式だったのでした。しかも襟と袖をグツグツと鍋で煮て糊に漬け込むのです。正に「カッチカチやで」の仕上がりとなり、肌のデリケートな男性にとっては拷問、夕方には首筋が擦れて真っ赤になって「エライコッチャ」。

 今日でもボタンダウンのシャツによく使われるバスケット編みで、バイアス方向に伸縮性があるオックスフォード地がスコットランドで発明されたのもこの時代、当時の感性、特に英国内においてはアクティブな用途、即ちスポーツ用素材と見做されていたのです。そうなんです、経済的上昇エネルギーで「パンパンやで」の活動的、さらには英国に対する自信さえ芽生え始めていた19世紀末のアメリカで真に望まれていたのが英国の伝統を踏襲しつつも、アメリカの新しい価値観とテクノロジーで、新世紀である20世紀に向けて改革したモノだったのです。そうした思想、哲学を体現したモノの一つが正にボタンダウンシャツだったのであり、半袖のシャツだったのだと。あの糊と固〜い芯地で「カッチカチやで」だったシャツが、襟と袖口が身頃と一体化した上、芯地が薄く、肌に優しく一日中着ても首が赤くならない、これが男性にとってどれほど革命的であったのか私たちには想像がつかないほど。アメリカ人男性のシャツのノースターチ好きも実はこの辺りからなのですね。

 もう一つ、後に日本で天竺、鹿の子などと呼ばれることになるコットン・ジャージー、コットン・メッシュなどポロシャツに用いられる素材、ニット地の登場はあと四半世紀、ルネ・ラコステの登場を待たないといけませんでした。そして夏をカッコよく快適に過ごすためにアメリカ人ならではの発想で創られたのが布帛(ふはく=織物)の半袖のスポーツ・シャツだったのでした。それまで紳士はどんなに暑くても長袖。今、再び話題のレット・バトラーだって半袖なんか着れませんでした、腕まくりが関の山(笑)。半袖がOKとなったのは20世紀に入ってからのマイアミを中心としたリゾート地。南国フロリダの強い陽射しに、鮮やかな色合いの派手な、即ちボールドなストライプ柄の半袖シャツが映えたのでした。こうした空気は時の流れと共に西海岸へ。1960年代、ボールド・ストライプの半袖ボタンダウン・シャツが大人気に! 火付け役はザ・キングストン・トリオやビーチ・ボーイズらミュージシャン。ボールドなストライプは本来チーム・スポーツで識別がしやすいのが本質なのですが、一人で着てもいい意味で目立つもの。白×ブルーやグリーンのボールド・ストライプの半袖ボタンダウン・シャツにホワイトやベージュのコットン・パンツを合わせたり、ジーンズでも。足元にはクラッシックなローファーやスニーカーを。こうした清潔感ある装いで暑い夏を見た目も爽やか、颯爽と過ごしたいものですね。それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。